大判例

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東京高等裁判所 昭和36年(ネ)781号 判決

〔証拠〕によれば、被控訴人は樋口賢一、土屋林その他何人にも本件土地を担保として第三者から金借したり、本件土地を賃貸したりすることの代理を委任したことなく、前記各登記がされる以前予て被控訴人の子大橋兼文が土地測量士なる樋口賢一に被控訴人所有地の測量をさせたことがあり、又昭和二八年一月頃被控訴人から土井光太郎なる者に売渡すべき土地の分筆及び所有権移転登記手続を依頼したことがあり、これ等の目的の為被控訴人の印鑑を樋口に預けてあつたところ、同人に於て被控訴人に無断で土屋林をして被控訴人の右印鑑及び印鑑証明書を冒用して本件土地につき被控訴人名義の抵当権及び賃借権設定登記申請に必要な書類を作成し之を使用して控訴人をして土屋に被控訴人を代理する権限があると誤信させて控訴人との間に前記の通り金員貸借、抵当権設定、及び停止条件付賃貸借の各契約を締結させ、前記書類を使用して前記各登記を了したこと、が認められる。

そして右契約当時控訴人及び被控訴人の住所が共に東京都葛飾区内にあつたことは本件口頭弁論の全趣旨により明らかであり、この地理的事情から見れば右契約締結に先ち控訴人が自ら被控訴人方を訪ねるか、又もし控訴人が多忙の為その他の理由により自ら被控訴人を訪ね得ないならば然るべき他人を派するという方法により被控訴人が真に土屋に代理権を与えたか否か問合せることは極めて容易と解され、この事態その他叙上の契約の内容及びその締結の経緯に鑑みれば本件土地を担保として金員の貸付を行う控訴人としては土屋林の代理権の存否に関する前記のような調査を行うことがとるべき相当の措置と考えざるを得ない。然るに控訴人が右のような調査を行わなかつたことは本件口頭弁論の全趣旨により明らかであつて、右調査を行わずに土屋に前記代理権があると信じたについては控訴人に過失があつたものと認める外なく、この過失がある以上仮に樋口賢一の代理権に関する控訴人の表見代理の主張が土屋林の右代理に関するそれをも包含するとしても控訴人が土屋に右代理権があると信ずべき正当の理由があるとし難く、従つて前記賃貸借契約に付被控訴人に本人として責任を負わせることはできない訳であつて、控訴人の抗弁は排斥せざるを得ない。

(高井 高津 弓削)

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